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名古屋地方裁判所 昭和36年(モ)901号 判決

申立人 学校法人名城大学 外三名

被申立人 日比野信一

補助参加人 大橋光雄

主文

被申立人を申請人とし、申立人学校法人名城大学、同伴林を被申請人とする昭和三五年(ヨ)第七〇一号仮処分申請事件及び被申立人を申請人とし、申立人学校法人名城大学、同田中健児、同加藤敏正を被申請人とする昭和三五年(ヨ)第七一五号仮処分申請事件につき、名古屋地方裁判所が昭和三十五年十一月四日言渡した判決中

申請人日比野信一が被申請人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長たる地位、並に被申請人学校法人名城大学の理事たる地位を有することを本案判決確定に至るまで仮に定める。

とある部分を取消す。

申立人らのその余の申立は却下する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

この判決第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一、申立

申立人(申立の趣旨)

一、被申立人を申請人とし、申立人学校法人名城大学、同伴林を被申請人とする昭和三五年(ヨ)第七〇一号仮処分申請事件、及び被申立人を申請人とし、申立人学校法人名城大学、同田中健児、同加藤敏正を被申請人とする昭和三五年(ヨ)第七一五号仮処分申請事件につき、名古屋地方裁判所が昭和三十五年十一月四日言渡した判決中

申請人日比野信一が被申請人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長たる地位並に被申請人学校法人名城大学の理事たる地位を有することを本案判決確定に至るまで仮に定める。

とある部分を取消す。

二、右取消された部分に対する被申立人の申請はこれを却下する。

三、訴訟費用は被申立人の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

被申立人

一、申立を却下または棄却する。

二、訴訟費用は申立人らの負担とする。

との判決を求める。

第二、主張

申立人補助参加人(申立の理由)

一、被申立人は、被申立人を申請人とし、申立人らを被申請人とする申立の趣旨一記載の仮処分判決により申立人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長及び申立人学校法人名城大学の理事たる地位を仮に定められている。

二、右仮処分判決は左の理由で取消されるべきである。

(一)  絶対的取消理由

被申立人は昭和三十三年十月三十日、任期二年をもつて申立人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長に選任され、同時にその理事に就任し、右両地位を根拠に、右仮処分申請をなしたが、右両地位は、昭和三十五年十月三十日右学長の任期満了と同時に消滅し、右仮処分申請の資格を喪失した。従つて右任期満了後である昭和三十五年十一月四日になされた右仮処分判決は仮処分の目的を逸脱している。

(二)  事情変更による取消

前記のように被申立人の学長たる任期は昭和三十五年十月三十日満了し、加えて昭和三十六年二月十九日、申立人学校法人名城大学理事会は被申立人を再選しない旨決議し、後任者として申立外足立聰を選任したから被申立人の右仮処分により保全されるべき地位は消滅した(なお、右決議選任当時の申立人学校法人名城大学の理事は申立人伴林、同学校法人名城大学代表者大橋光雄、申立外兼松豊次郎、同小島末吉、被申立人の五名であるが、同日の理事会には右伴、大橋、兼松の三名が出席し、前記決議をなし、同日の評議員会で承認を得た)。

三、大橋光雄の代表権及び参加の理由について

(一)  名古屋地方裁判所は昭和三十五年十月二十一日、昭和三五年(ヨ)第五二八、第六八二号仮処分申請事件の判決により弁護士浦部全徳を申立人学校法人名城大学の理事長職務代行者に選任したが、同代行者の地位は該部分仮処分申請の取下により消滅した。

(二)  大橋光雄は申立人学校法人名城大学の理事長であり、少くとも右(一)の判決により申立人学校法人名城大学の理事の地位を仮に定められ、且つ昭和三十六年二月十八日申立人学校法人名城大学理事会により理事長に選任された。

(三)  よつて大橋光雄は理事長または理事として申立人学校法人名城大学を代表するほか、理事として本申立事件の結果に重大な利害関係を有するからこれに参加するものである。

被申立人

一、申立却下を求める理由

(一)  事情変更による取消の申立は、当該仮処分の債務者及びその承継人に限られるから、大橋光雄はその資格がない。

(二)  申立人学校法人名城大学の代表者について

(イ) 前記三の(一)の仮処分の存在及び仮処分申請取下の事実は認めるが、仮処分判決後は仮処分申請の取下は許されず仮に許されたとしても判決の効力は当然には失効しないものであるから、前記弁護士浦部全徳の職務代行者たる地位は申立人主張の仮処分申請の取下によつては消滅せず、従つて同代行者が申立人学校法人名城大学を代表すべきである。

(ロ) 大橋光雄は申立人学校法人名城大学の理事及び理事長ではなく。

(ハ) 仮に理事または理事長であるとしてもその旨の登記がないから対抗し得ず。

いずれにしても申立人学校法人名城大学の本件取消の申立は代表権限のない者がなしたものである。

(三)  本件仮処分判決については、申立人伴、田中、加藤は控訴の申立をなし、現在、昭和三六年(ネ)第一〇〇号事件として名古屋高等裁判所に係属中であるから、本件申立人などの主張事実は、控訴審において控訴人として、または控訴しない申立人学校法人名城大学の場合は補助参加人として主張すべきであり、本件申立は権利保護の必要を欠くものである。

二、申立の理由に対する認否及び主張

(一)  前記二の事実中、被申立人が昭和三十三年十月三十日、任期二年をもつて学長に選任され、理事に就任した事実は認めるがその余は争う。三の各事実中浦部弁護士が職務代行者に選任された事実は認めるが、その地位が消滅したとの点、及び大橋光雄が理事、理事長である点は否認する。

(二)  学問の自由の保障の精神に則り、私立大学の学長に関しても、教育公務員特例法は準用または活用されるべきである処、同法第八条は、学長の任期は大学の管理機関即ち選考機関が定める旨規定しているから、この趣旨に鑑み名城大学においても任期は協議会において定められるべきであり、従つて任命権者たる理事会がなした任期を二年と定める部分の決議は無効であり、同学長の任期は、寄附行為第九条第一項により、五年となるから被申立人の任期は未だ満了していない。

(三)  仮に任期が満了したとしても、適法、有効なる後任者が選任されていないから、被申立人は、寄附行為第九条第三項により、なおその職務を行うことが出来、従つて依然として学長及び理事の地位を有するものである。

なお、後任者選任の決議は存在しないが仮に存在したとしても右決議は次の理由で無効である。

(イ) 申立人ら主張の昭和三十六年二月十九日に開催された理事会の構成員である申立人伴林、大橋光雄、申立外兼松豊次郎は理事ではない。即ち大橋光雄は昭和三十三年十二月一日申立人学校法人名城大学の理事に選任されたと称しているが、右選任に当つて、理事選任権を有する当時の基本理事、申立外田中寿一、同小島末吉、被申立人の三名中、田中以外は選任に関与せず、従つて右選任には過半数の賛成が得られていない。

(ロ) 申立人学校法人名城大学が設置する名城大学の学則第十条には、教授、助教授、講師及び助手の進退に関する事項は、教授会において審議決定する旨規定し、第十一条には協議会の運営は教授会に準ずるものとし、第十条各号所定の事項のうち、各部共通の事項を審議決定する旨規定しているから、学長の任命は、各部共通の事項として同大学協議会において審議決定する必要があるにも拘らず右後任者選任に際しては右手続は行われていない。

申立人、補助参加人

一、被申立人の主張中一の(三)中、申立人学校法人名城大学以外の者が控訴し、現に名古屋高等裁判所に係属中であることは認める。

二、申立人学校法人名城大学の寄附行為には学長の任期が満了した場合、後任者が選任されるまでその職務を行う旨の規定はない。

三、仮に後任者選任までその職務を行うとしても後任者は前述のように選任された。この場合後任者選任の適法有効を問わず前任者はその地位を失うものである。

四、学長選任に際し協議会の審議決定は不要である。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、大橋光雄の参加について

大橋光雄は、申立人学校法人名城大学の理事であり、本件申立事件の結果に重大な利害関係を有するからこれに参加する旨申出ているが、その参加が如何なる参加であるかは必ずしも明らかでない(本件申立書には「参加(共同参加)する」旨の記載がある)。

そこで、右参加を次のような民事訴訟法上の各種の参加の要件にあてはめつつ、その参加の性質を考えてみる。

先づ、右参加を民事訴訟法第七十五条の共同訴訟参加とみると、もともと共同訴訟参加は、判決の効力が合一に確定すべき訴訟の当事者適格を有することを前提とする参加であるから、本件取消の対象となる仮処分事件の被申請人またはその一般承継人ではなく、従つて仮処分異議又は仮処分取消訴訟における申立人としての適格を有しないこと明らかな大橋に、この種の訴訟参加をなし得る資格が存しないこと言うを俟たず、また右参加を民事訴訟法第七十一条の独立当事者参加とみても、大橋が自己が申立人学校法人名城大学を代表する本件訴訟の結果によりその権利を害されるなどこの参加の理由を有するとは考えられず、従つて大橋の右参加は右二種の参加としては不適法たるを免れない。

然し、右に加えもともと右二種の参加としては不適法であるとしても、それが民事訴訟法第六十四条の要件を具備するときには、補助参加としての効力を有するものとして取扱うのが妥当である上、弁論の全趣旨によれば大橋の参加申出に補助参加をなす意思が認められない訳でもないから右参加は結局、補助参加と解すべき処、大橋が申立人学校法人名城大学の理事たる地位を有しない旨主張する被申立人の訴訟態度、その他弁論の全趣旨によれば、被申立人は大橋の参加申出に異議を述べていると認められるから補助参加としての適否を判断すると、成立に争のない疎甲第一号証によれば、大橋は申立人学校法人名城大学の理事たる地位を有するものと一応認められ、且つこのような法人の理事は同一法人の理事の仮の地位を定める仮処分判決の取消訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するものと考えられるから、結局、大橋光雄の参加申出は、補助参加(弁論の全趣旨によれば申立人学校法人名城大学を補助するための参加)としてのみ適法としてそれを容認することとする(なお、参加人が共同訴訟参加或いは当事者参加をなす旨明示している場合、これを前記のように補助参加に転換を認める場合には、右共同訴訟参加、当事者参加が独立の訴、その他の本案の申立を含む以上、主文において共同訴訟参加或いは当事者参加としては却下する旨を判決主文に掲げる必要があるが本件参加申出のようにその趣旨が不明なものを補助参加と解釈する場合にはもともと本案の申立を含まないのであるから、何等主文において明示する必要はないものと解する。)

二、被申立人は、次のような理由(事実記載、被申立人一、申立却下を求める理由)により本件申立の却下を求めるから逐次その当否を検討する。

(一)  大橋光雄には取消申立の資格がないとの主張について。

被申立人主張の如く、大橋に独立して本件取消の申立をなす資格がないことは前述のとおりであるが、大橋は独立して本件取消の申立をなしているのではなく、訴訟参加をなすに止まるのであるから被申立人の右主張は、申立書、準備書面などに「申立人(参加人)大橋光雄」或いは単に「申立人大橋光雄」などと記載されその資格の表示が不正確であることにより惹起された、大橋の訴訟上の地位に対する誤解に基くものと考えられ、それを採用することはできない。

(二)  申立人学校法人名城大学の代表者について。

(1)  昭和三十五年十月二十一日、当裁判所の仮処分判決により弁護士浦部全徳が申立人学校法人名城大学の理事長職務代行者に選任されたが、その後その部分の仮処分申請が取下げられたことは当事者間に争いがない。

仮処分判決後にも申請取下の利益がある限り、申請人は何時でも仮処分申請の全部または一部を有効に取下げることができ、且つ申請の取下により仮処分判決は何等の手続を要せず当然失効するものと解されるから、右職務代行者の地位は既に消滅したこと明らかである。

従つて、右仮処分申請の取下は無効である、或いは申請の取下により当然には仮処分判決の効力は消滅しないとの被申立人の主張は独自の見解に基くものであり、到底採用できない。

(2)  前顕疏甲第一号証、成立に争のない疎甲第二、三号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる疎甲第四、五号証を総合すると、昭和三十五年十月二十一日、当裁判所は仮処分判決により(イ)大橋光雄の申立人学校法人名城大学の理事たる地位を仮りに定め、且つ、(ロ)同学校法人の理事長田中寿一の職務執行を停止して前述のように浦部弁護士をその代行者に選任したが、昭和三十五年十一月十一日、田中寿一は死亡し、その後、右(ロ)部分の仮処分申請が取下げられた結果浦部理事職務代行者の地位は消滅し、更にその後、昭和三十六年二月十八日、大橋光雄が申立人学校法人名城大学の理事長に互選された事実が一応認められ右推認を左右するに足りる証拠はないから、同人が申立人学校法人名城大学の代表権を有するものと言わざるを得ない(成立に争のない疏乙第二号証、(寄附行為第十条)同疏乙第一号証(登記簿第五項末尾)によれば右学校法人においては少くとも理事長の存在する以上その理事長のみが法人代表権を有するものと推認される)。

従つて大橋に代表資格なしとの被申立人の主張は失当である。

(3)  私立学校法第二十八条第二項は、登記事項は登記後でなければ第三者に対抗できない旨規定し、私立学校法施行令第一条第二項第六号によれば理事長の地位は登記事項とされているが(私立学校法第三十五条に照らすと、右施行令第一条第二項第六号の登記事項たる「役員」には理事監事のみならず理事長も含まれると解する)、前顕疎乙第一号証によると、大橋光雄の理事長たる地位については被申立人主張のとおり登記がなされている事実は認められない。

然しながら、登記事項は登記後でなければ第三者に対抗できないとの所謂、登記に関する消極的公示の原則の目的を考えると、右第三者は善意であることを要するは勿論(商法第十二条参照)、登記主体たる学校法人の外部にあつてそれと取引関係など所謂、取引法上の法律関係に立つ者たることをも要すると解すべきである。

そうすると、理事として学校法人の内部的機関たる地位にあり、且つ学校法人と右取引法上の法律関係ではなく、専らその地位の存否をめぐる所謂、組織法上の法律関係に関する紛争の当事者として対立するに止まる被申立人が右第三者に包含されないことは明らかであるから、大橋は登記なくとも前記理事長たる地位を被申立人に対し主張し得ることになり、この点に関する被申立人の主張は採用することができない。

(三)  申立人らの権利保護の必要について

本件取消の対象たる仮処分判決について申立人伴、同田中、同加藤が名古屋高等裁判所に控訴中であることは当事者間に争がないが、事情変更による仮処分取消の申立は、仮処分発令後その効力の消滅までの間であれば、何時でも、その仮処分の被申請人はこれをなし得、且つ右取消申立の制度は、仮処分に対する異議または上訴の申立のように、仮処分命令自体の当否を争うことを目的とするものではなく仮処分命令の存在を前提としてその後に生じまたは生ずることあるべき特別の事由、原因に基き仮処分取消を求め得ることを法が特に認めた仮処分債務者救済の他の訴訟制度であるから、たとえ異議または上訴審において右取消事由の主張が許されるとしても申立人らがそのために仮処分取消の申立をなす法律上の利益を失うものでないと言うべきである。よつて権利保護の必要なしとの被申立人の主張はこれまた採用できない。

三、仮処分取消事由の存否

主文掲記のような仮処分により、被申立人は、申立人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長並に右学校法人の理事たる地位を仮りに定められたが、申立人らは次の事由により右仮処分の取消を求めるから以下その主張する取消事由の存否を検討する。

(一)  申立人ら主張の絶対的取消事由(事実記載第二、申立人らの主張二の(一))について。

申立人らは、被申立人の右学長並に理事たる地位は、昭和三十五年十月三十日、任期満了により消滅したから、同人は仮処分申請資格を喪失した。したがつて右任期満了後である昭和三十五年十一月四日になされた本件仮処分判決は仮処分の目的を逸脱するものである旨主張する。

然しながら、仮処分取消の訴訟制度の目的が前述のごときものである以上、仮処分判決の当否に関するあらゆる事由を主張し得る仮処分異議の訴訟または仮処分判決に対する上訴審においてならともかく、仮処分判決後(正確に言えばその口頭弁論終結以後)生じた事由に基いて仮処分の取消を求めることは許されず、またこの点を離れて考えても、仮処分など保全訴訟に限らず、訴訟一般においては、その口頭弁論終結までの訴訟資料に基いて裁判すべきであり、且つそれで足りるのが原則である処、本件仮処分事件が昭和三十五年九月三十日その口頭弁論を終結したこと当裁判所に顕著であるから、右判決はその後到来する右任期満了の事実を、たとえ当事者の、主張があつたとしても仮処分申請資格、被保全権利或いは必要性の存否に関しては斟酌し得ないこと明らかであり、いずれにしても申立人らの右主張はそれ自体失当であると言わねばならない。

(二)  事情変更による取消(右申立人らの主張二の(二))について。

申立人らは、被申立人は右任期満了により前記学長並に理事たる地位を喪失し、従つて本件仮処分の被保全権利(地位)は消滅したと主張する。

(1)  前顕疏乙第二号証(寄附行為)によれば、申立人学校法人名城大学においては同学校法人の設置する名城大学の学長は当然同学校法人の理事となり、両地位はいわば不可分のものとされていることが一応認められる(同寄附行為第七条第一項参照)。

(2)  被申立人が昭和三十三年十月三十日、任期二年をもつて申立人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長に選任され、それに伴い右述の規定に基き同学校法人の理事たる地位に就いたことは当事者間に争いがない。

(3)  処で、被申立人は、私立大学の学長の任期についても教育公務員特例法第八条が準用または活用されるから理事会が決定した右任期二年の定めは無効であり、その任期は寄附行為第九条第一項により五年となるべきであるから被申立人の任期は未到来であると主張する。

もとより、憲法、教育基本法、学校教育法などが示す教育に関する基本的権利、精神及び制度的体系のもつ普遍性は否定できないが、同時に公私立学校間に存するその存立の根拠の相違もまた無視し得ず、それに伴い、私立学校においては右基本的精神などに反しない限りは、それぞれの存立の趣旨、歴史などに鑑み、自由にその管理運営をなすことが認められ、そこにその特色があるとされているのであるから、必ずしも、その教職員の選任、任期などに関し被申立人主張のように教育公務員特例法の準用、活用があるとは言い得ず、加えて前掲、申立人学校法人名城大学寄附行為第九条第一項は同学校法人の役員の任期を五年と定めるが、同項は、第七条第一項により理事となる者(学長)を除くと規定しており、これは明らかに学長たる理事の任期についてはそれをその選任権者に委ねる趣旨とみられ、そうすると後述のように右学校法人における学長の選任権者がその理事会である以上、同理事会がなした被申立人選任における任期二年の定めは有効であると言わざるを得ず、従つてこの点に関する被申立人の主張は採用できない。

(4)  被申立人は、仮にその任期が満了したとしても、後任者が適法、有効に選任されるまではその地位を有すると主張する。

申立人らはこれを争うが、凡そ、団体法人などの機関については、その性質上、任期満了後も後任者が選任されるまでは依然その職務を行い、その限度で従前の地位を有するとするのが一般原則であり、加えて前掲寄附行為第九条第三項は右原則に則り、申立人学校法人名城大学の役員は任期満了後でも後任者選任まではその職務を行うと規定するが、右役員については同条第一項のように学長たる理事は除かれていないから、被申立人はその任期満了後も後任者が選任されるまでは従前の学長並に理事たる地位を有するものと言わねばならない。

(5)  更に、申立人らは、後任者が選任されれば、その選任の適法、不適法、有効、無効を問わず前任者はその地位を失うと主張するが、無効な後任者の選任は法律的にその選任がないのと同断であるから、後任者の選任が有効なものでなければならないこと言うを俟たない。

(6)  処で、申立人らは昭和三十六年二月十九日被申立人の後任者として申立外足立聰が選任されたと主張する。

被申立人は右事実を否認するが、申立人学校法人名城大学代表者大橋光雄尋問の結果及びこれにより成立の認められる疏甲第八号証の一、二によれば、昭和三十六年二月十九日、申立人学校法人名城大学代表者大橋光雄、申立人伴林、申立外兼松豊次郎三理事出席の上開かれた同学校法人理事会において、被申立人を学長に再選せず、申立外足立聰をその後任者に選任する旨の決議がなされたことが一応認められる。

(7)  更に被申立人は右後任者の選任の無効を主張するからその当否を次に検討する。

(イ) 被申立人は、申立外足立聰を後任者に選任した理事会の構成員たる前記、大橋、伴、兼松の三名はいずれも申立人学校法人名城大学の理事たる資格を有しないから右選任は無効であると主張するが、このうち大橋は叙上認定のごとく当裁判所仮処分判決により、右学校法人の理事たる地位を仮に定められており、この仮処分判決の拘束力が右仮処分事件の当事者でない被申立人に及ばないとしても、右のような仮処分の存在は同人の理事たる地位を一応推測させるものであり、また伴、兼松についても前顕成立に争のない疏乙第一号証によれば伴は昭和三十五年二月二十九日、兼松は昭和三十四年十二月十日、それぞれ右学校法人の理事に就任し、その旨の登記がなされていることが一応認められるところ、右各選任についての具体的無効事由の主張はなく、結局右三名はいずれも理事たることが一応認められることになるから被申立人の右主張は採用できない。

(ロ) 被申立人は学長の選任は申立人学校法人名城大学が設置する名城大学の協議会が審議決定するものであるから理事会のなした右後任者選任は無効であると主張する。

なるほど、被申立人主張のように証人渡辺鎮雄の供述により真正に成立したものと認められる疏乙第四号証の名城大学学則第十条は、教授会は、教授、助教授らの進退に関する事項(第三号)、その他重要なる事項(第五号)について審議決定する旨規定し、同学則第十一条第四項は、協議会の運営は教授会に準ずるものとし、第十条中各部共通の事項について審議決定する旨規定する。

然し、財団法人的性質をもつ学校法人においては、理事が唯一の法人意思決定並に表明機関であり、従つて法律上の原則としてはこの唯一の意思機関である理事に法人管理の一切が委ねられていると言わざるを得ず、もとより学校法人の特殊性に鑑み、その教育運営に関しては、その実際に携る教職員らの意思の反映は望ましく、次第にこれらの意思の尊重が学園の自治の名で、高められていることは否めないにしても、このような事実は、右述法人管理に関する法律上の原則を覆し得るものではない。これを申立人学校法人名城大学について考えても、当然のことながら前掲寄附行為第十二条は、法人の業務は理事会がこれを行う旨規定して右原則を宣明し、而して学長選任が法人の業務に属すること明らかであるからこれが理事会の決定事項に属するものと解せざるを得ない。更に考えると、教職員らの人事に関し、これを理事会の専権に委ねることはその身分、ひいては教育の自由などその脅かす結果を招来する慮がある処から、その身分の保障のため、何等かの方法によつて理事会の人事権を制約することが多く見られ、名城大学においても、教授らの進退については教授会が審議決定権を持ち、それらの身分保障を期していること前掲学則の示すとおりであるが、このことから直ちに学長選任についても教授会或いは協議会が審議決定権を有すると解することはできない。

何故なら、例えば教育公務員法は学部長の選任は教授会の審議を要する旨規定するが、同時に学長選任については別に大学管理機関が定める基準によるとし(同法第四条第二項)、学部長に比し、その地位の重要性において格段の差がある学長選任は別に定める詳細な選考基準(被選任資格、選任資格などに関する所謂学長選考基準)に基いてこれをなすという慎重な態度を採つているのに対し、名城大学における前記学則はかかる重大な学長選任について何等規定を置かず、また同大学に学長選任に関する詳細な基準が存するとの疏明が存しないからである。もともと右述学長の地位の重要性に照らすと、その選任について、前記学則第十条の、教授らの進退に関する規定の類推をなすのは甚だ困難であり、また前記学則第十条の、その他重要な事項、第十一条の各部共通の事項中に学長選任が含まれるとの解釈も、学長選任の重大性を考えると到底承認できず、結局、学校教育の民主性からすれば、学長選任を公選或いは教授会などの推せんによるものとするは望ましいとしても現実における名城大学における学長選任権は前述法律的原則に基き理事会にあるものと言わざるを得ない。このように、学長選任が理事会の専権事項と考えざるを得ない以上、この点に関する被申立人の右主張は採用することができない。

四、以上、各争点を検討した結果、次のような結論に到達する。

申立人ら主張のように、被申立人の申立人学校法人名城大学の設置する名城大学の学長たる地位は、昭和三十五年十月三十日その任期が満了した後、その後任者申立外足立聰が適法、有効に選任されて昭和三十六年二月十九日に消滅し、同時に同人は右学校法人の理事たる地位をも失つたものと一応認められる。

そうすると、主文掲記の本件仮処分における被申立人の被保全権利(地位)は一応消滅したことになるから、この点に関する申立人らの本件仮処分判決取消の申立は理由ありとしてこれを認容する。然しながら右仮処分申請の却下を求める申立は、前記絶対的取消事由に関して述べたように、本件訴訟は、右仮処分の当否を判断することを目的とするものではないから事情変更があつても仮処分の取消をすれば足り、仮処分申請を却下する必要はなく、また、右、絶対的取消事由としての申立人らの主張が失当であること前述のとおりであるからこれを却下し、右仮処分判決取消の部分については仮執行宣言を附することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行宣言につき同法第七百五十六条の二を各適用して主文のとおり判決する。

なお、昭和三十七年三月二十日附書面(同月二十二日受付)により、申立外小島末吉は、申立人学校法人名城大学の理事としてこれを代表し、同学校法人のなした本件仮処分判決取消の申立を取下げたが、同人の右申立の取下は次の理由により無効のものと認められる。

即ち、右取下書添付の当裁判所仮処分判決によると、同人は右学校法人の理事たる地位にあると認められ、また法律上、私立学校法人においては各自理事が代表権を有するのが原則とされてはいるが(私立学校法三七条本文)、同時に寄附行為によりそれを制限することが許され(同条但書)、而して前顕疏乙第二号証の右学校法人寄附行為によると学校法人名城大学においては理事長のみが法人代表権を有し、その他の理事はこれを有しないとされており、また前顕疏乙第一号証によるとその旨の登記もなされていることが認められるから、理事長ではなくその他の理事に過ぎないと認められる申立外小島末吉には右学校法人を代表すべき権限はないものと言わざるを得ない。

但し、右のような理事の代表権の制限が存しても、理事長が欠け、またはそれと同視すべき重大な事故ある場合には寄附行為解釈上、理事の代表権制限は一時的に消滅し、前記法律上の原則に戻つて各自理事に代表権が復活するとみる可能性は存するが、本件においては既述のように大橋光雄が右学校法人の理事長と認められるから、理事長の欠缺事故はなく、従つて理事の各自代表復活の余地はない。

尤も、当事者が学校法人名城大学には理事長が存在しないから理事が各自代表権を有するとして訴訟を提起した場合、代表権の存否は所謂、職権調査事項ではあるが、裁判所が積極的にあらゆる資料を蒐集してその存否を探知する程の強い義務を負うとは考えられず、主として当事者提出の資料に基いてそれを調査すれば足りるのであるから、右学校法人の寄附行為に右述のような理事の代表権の制限が存するとの事実が資料上現われず、また仮りにその事実が現われたとしても資料上理事長の存否が不明の場合にはそれを理事長の欠缺と同視し、寄附行為の解釈上、法律上の原則である理事の各自代表権が復活するとして理事長以外の理事の代表行為を容認することはあり得るが、本件においては証拠資料上右学校法人には大橋光雄なる理事長が存すると認められること前述のとおりであるから、右のような特別の解釈による理事長以外の理事の代表権の承認という結果は生じないのである。

いずれにしても申立外小島末吉は理事であつても本件においては学校法人名城大学の代表権を有せず、従つてそれがなした前記本件申立の取下は無効と断ずるほかはない。

(裁判官 木戸和喜男 川端浩 上杉晴一郎)

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